アーサー・ラッカムのシンデレラ

欧米においてシルエット技法がイラストレーションに用いられるようになったのは、18世紀後半からと言われています。

それまでは主に肖像画の代わりとして使われていたものが、芸術的な表現のために使われるようになりました。

作家ジェーン・オースティンのシルエット(18世紀)

写真が一般に普及するまで、紙に横顔を切り抜く“切り絵”は手軽なポートレートとして重宝されました

今回とりあげたアーサー・ラッカム(Arthur Rackham, 1867-1939)の"Cinderella"も、このシルエット技法で描かれた名作のひとつ。

ですが、アーサー・ラッカムがこの表現を採用したきっかけは、純粋に芸術的な動機からではありませんでした。

この本が出版されたのは1919年。第一次世界大戦による物資の不足は出版業界にも影を落とし、かつてのように豪華な挿絵本を作ることは出来なくなっていました。そこで考えられたのが、シルエットで挿絵を描くこと。これならインクの色も少なくて済み、コストも大幅に抑えられる──いわば苦肉の策でした。

しかし、そこは流石に挿絵黄金期の中核を担ったアーサー・ラッカム。課せられた“制限”が、かえって生き生きと物語の世界を表現しています。

タイトルページ

フルカラーのイラストは、左側にある口絵の1枚のみ

3色のカラープレートは6枚

そして黒1色のイラスト

すべてのイラストを見るにはこちら(Wikisource)がいいかもしれません

文章も全文掲載されています

シャルル・ペローのお話と違い、この本ではシンデレラは謝る姉妹を許し、なんと宮殿内に彼女たちのための豪華な部屋まで用意してやります

彼女たちはそれぞれ宮廷の紳士と結婚し、誰も悲惨な結末を迎えることはありません

もちろん、王子とシンデレラも末永く幸福に暮らし、物語は大団円を迎えるのでした

アーサー・ラッカムは、この本のほかにもシンデレラのイラストを幾つか描いています。ついでにそちらも少しご紹介。

"Grimm's Fairy Tales"(1909年)から'Ashenputtel'

アッシェンプテルとは、ドイツのシンデレラのこと

上記1919年のシルエット絵本に描き込まれたイラスト

Ransom center Magazine

ラッカムは部数限定のスペシャルエディションに自らスケッチを添えることがあり、これはそのひとつとのこと

一般に公開されたものではないので、あまり目にする機会はありませんが、ラフな感じが可愛い

1920年頃

このイラストとひとつ上のイラストについては詳細は、わかりませんでした

"The Arthur Rackham Fairy Book" 1933年から

アーサー・ラッカムが描いた様々なタイプのシンデレラ。

どのイラストのシンデレラがお好みですか？