ウジェーヌ・グラッセの"美しき女庭師"たち
スイス出身でフランスで活躍したウジェーヌ・グラッセ(Eugène Grasset, 1845-1917)。
アール・ヌーヴォーの先駆者と言われるその仕事はイラストやポスターのほか、建築、家具、ステンドグラス、ジュエリー、タイポグラフィー等々、非常に多岐にわたるため総じて“装飾家”と呼ばれています。
その彼が描いた"La Belle Jardinière"のシリーズ(1896年)。
これらは、パリにあった服飾専門の百貨店"Belle Jardinière(ベル・ジャルディニエール)"が顧客に配布するカレンダーのために描かれたものです。
ラファエロの名画"美しき女庭師(イタリア語では'La Bella giardiniera')"と同じ名前の服飾店。ウジェーヌ・グラッセが描いたのは、文字通り庭仕事をする美しい女性たちの姿でした。店の名前にかけて四季折々の花で華やかに彩ることが出来る題材は、カレンダーにうってつけだったのでしょう。
絵の中の女性たちが着ているドレスも、当時店頭に並べられていたであろう流行のスタイルが取り入れられました。
また女性の服の柄が、その月の星座のシンボルになっているほか、描かれた植物や人物の姿にも黄道十二宮への対応や寓意がこめられているといいます。
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Janvier:1月 |
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Février:2月 |
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Mars:3月 |
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Avril:4月 |
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Mai:5月 |
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Juin:6月 |
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Juillet:7月 |
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Août:8月 |
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Septembre:9月 |
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Octobre:10月 |
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Novembre:11月 |
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Décembre:12月 |
カレンダーという形で配布されることは「芸術をもっと身近なものとして多くの人々に届けたい」と考えていたウジェーヌ・グラッセの思いにも合致することでしたが、とはいえ、その時代にこれだけのものを12枚1組で制作するのは、それだけでもかなり贅沢なこと。
当時、"ベル・ジャルディニエール"は百貨店から事業を拡大し、ピーク時には300店舗以上の支店を持つ一大服飾店チェーンになっており、その勢いがあってこそ出来たことかもしれません。
ウジェーヌ・グラッセが描いたカレンダーは好評を博し、その後、1899年と1904年にもグラッセが描いたカレンダーが制作されました。
1899年版
1899年版は1枚で1年分となっています
おそらくは1896年版よりも多くの部数が刷られ、更に広い範囲で大量に配布されたものではないかと思います
1904年版
3ヶ月ずつ4枚1セット
日本でも以前は企業や小売店がこぞってカレンダーを無料配布していましたし、1970年代後半くらいからはスケジュール帳などもそれに加わりました。なかには意匠を凝らしたものもあり、年末のささやかな楽しみでもあったのですが、最近はめっきり見なくなりましたね。
今はスマホで管理できますし、実用としてのカレンダーやスケジュール帳の需要自体も減っているのでしょう。資源を無駄にしないという意味でも良いことではあるのですが、美しく可愛らしいエフェメラの文化が消えてゆくのは淋しいことだとも思います。
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