アールデコ時代のインテリア・カタログ
出版されたのは1921年。出版したのは当時アメリカのペンシルバニア州にあったタイルメーカーの協会で、巻末には13社の名前が記されています。
内容はリビング、ダイニング、サンルーム等々、タイルを使った内装デザインの提案で、美しいイラストが具体的なイメージを伝えています。
イラストの配置や説明文は、こんな感じ
こちらは“レセプション・ホール”のためのデザイン
Living Room
Dining Room
Veranda
Sunroom
Bathrooms
この冊子では各寝室にバスルームを設置することが推奨されており、下のイラストはおそらく子ども部屋のバスルーム。身体を拭いてあげているのはナニーさんかもしれません。
余談ですが、欧米のバスルーム…特に昔の雑誌などで見るバスルームは、まるで居室のようなデザインのものが結構あって、水回りにこれは大丈夫なのかと常々思っていました。
「空気が乾燥しているから大丈夫なのかな」とも思っていたのですが、この冊子を読むと、“タイル貼りの浴室はタイルの豊富な色と質感で、どんなスタイルでも作り出せるうえ、清潔で耐久性があり再仕上げなどの必要がありません。やり直すことが無いので最初にかかった費用がすべてです”といったようなことがセールスポイントとして書いてあるので、いかに気候が違うといえど、やはりあの装飾性を保つためには、それなりに苦労を要したのだなと思った次第。
Kitchen
キッチンの床をタイル貼りにすれば掃除がしやすく、磨いたり油をひいたりしなくてもよいという説明のほかに、そのように労働環境を整えることで、より望ましい人材を雇うことができるという意味のことも書いてありました。
つまりイラストは、この家の奥様と家政婦(または料理人)ということですね。Laundry
この冊子が発行された当時(1921年)、新築の家であれば洗濯室はタイル貼りがポピュラーであったようなことが書かれています。そのうえで、“洗濯室をタイル貼りにすることで古い家にも新たな価値が生まれ、新しいクラスの家になれる”との説明が。
Garage
高級車のための(と、わざわざ書いてある)車庫には、掃除がしやすく耐火性にも優れたタイル貼りが最適と謳っています。
Exterior
おしまいは外壁。外壁の装飾にもタイルを使うことがお勧めされています。
こちらでも耐火性に言及してはいますが、主な目的は種類豊富なタイルで外壁に芸術的な彩りと変化を加えようというもの。この冊子では芸術性という言葉も度々使われています。『最先端の洗練を手に入れたいならタイルを』ということなのでしょう。
一方、タイルはその耐久性とメンテナンス不要の扱い易さから、経済的であるということも繰り返し強調されています。
今まで見た通り、この冊子は、家にレセプションルームや広いサンルームを備え、ナニーや料理人、洗濯などの雑役を行う人、運転手など複数の使用人を雇っている、かなり裕福な生活が描かれています。実際、ここで提案されていることを実現しようとすれば、それなりに費用が要る話だったはず。
それだけの費用を出せて、なお且つ新しもの好き。見栄えはよくしたいけれど、しかし出来れば余分なお金は出したくない──なんとなくターゲットとされている層は、こんな感じかな?というイメージ(新興のお金持ちとか)が浮かんできます。
最初はただ、販促用のパンフレットにしては美しいイラストに目を奪われたのですが、詳しく見てみると当時の社会の一端までもが垣間見えるよう。
広告などの“用途”を持っていたものは、よりリアルにその時代を反映している面白さがありますね。
※なお、この冊子〈Home suggestions〉はInternet Archiveで、イラスト以外も含む全ページを閲覧、ダウンロードも出来ます。
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