マドレーヌみたいな女の子たち


藤田嗣治(Léonard Tsuguharu Foujita, 1886-1968)の『ケープをまとった子どもたち』(1956年)。

藤田の終の棲家となったフランスの家には、彼がスペインを旅した際に持ち帰った木製のドアが複数使われており、家の壁のほうをそのサイズに合わせて作ったというのは有名な話。これはそのドアの装飾パネルのうちの1枚だったそう。
カトリックの学校の生徒なのか、全員が胸に十字架を下げています。

おそろいの服を着て、おそろいの帽子を被り、1列に並んだ女の子たち。
この絵を見た時、すぐに「あ、マドレーヌみたい」と思いました。
ルドウィッヒ・ベーメルマンス(Ludwig Bemelmans, 1898-1962)の絵本 "Madeline" の、パリの寄宿舎で2列になって暮らす女の子たちみたいだと。
 
ベーメルマンスの“Madeline”

2列になって食事をし、2列になって歯をみがき、2列になって就寝する12人の女の子たち

毎日9時半、シスターのミス・クラベルに引率され、2列になって散歩に出かけます
12人の中でいちばん小さくて、いちばん元気なのが主人公のマドレーヌ
行儀よく並んだ様子だけでなく、つばの上がった平たい帽子や白い襟、ケープカラーのコートなどが似た雰囲気に感じるのでしょうね



おそろいの制服で並んで歩く少女たちといえば、ベルナール・ブーテ=ド=モンヴェル(Bernard Boutet de Monvel, 1881-1949)の作品も思い浮かびます。
ベルナール・ブーテ=ド=モンヴェルは、フランスの画家ルイ=モーリス・ブーテ=ド=モンヴェル(Louis-Maurice Boutet de Monvel, 1850-1913)の息子。
ベルナールは、このモチーフを気に入っていたのか、イラスト、油彩、版画と様々な手法で繰り返し描いています。

"The Little Orphan Children March Two By Two(ふたりずつ行進する小さな孤児たち)"
アメリカの雑誌 'The Century Illustrated Monthly Magazine' に掲載されたイラスト(1913年)
ベルナールの兄で文筆家のロジェ・ブーテ=ド=モンヴェルが書いた "Nemours: A Typical French Provincial Town(ヌムール:典型的なフランスの地方都市)に添えられた挿絵

"Le pensionnat de Nemours(ヌムールの寄宿学校)" 
英題:"The Orphans or The Boarding School at Nemours(孤児たち、またはヌムールの寄宿学校)" 1909年 油彩

"Le pensionnat(寄宿学校)"
英題:"The Boarding School" 1910年 エッチング


そして、更にもうひとつ。
こちらはアルゼンチンの画家ヴァレンティン・ティボン・デ・リビアン(Valentín Thibon de Libian, 1889-1931)の "Las colegialas(女子生徒たち)" 1927年。


2列に並んで歩く様子や引率するシスターの構図は、ベルナール・ブーテ=ド=モンヴェルやマドレーヌに近いですが、子どもたちの感じは、むしろどことなく藤田嗣治のものに近い気がします。
藤田の『ケープをまとった子どもたち』は、背景にサボテンが描かれていますが、ヴァレンティン・ティボン・デ・リビアンがアルゼンチンの画家ということで、中南米やスペイン語圏の雰囲気が共通しているのかもしれません。


寄宿学校や制服といった、現代では人気のありそうな題材。今回このブログを書くにあたって改めて見渡してみたところ、それらを扱った絵画やヴィンテージイラストは、写真に比べると意外に数が少ない印象でした。写真が結構あるのは“記録”としての意味合いが大きかったためでしょう。当時、芸術の題材としては特に注目すべきものとは思われていなかったのかもしれません。
その中でこの構図を繰り返し描いたベルナール・ブーテ=ド=モンヴェル、象徴としての子どもを沢山描いた藤田嗣治、ドガに影響を受け街とそこに暮らす人々を描いたヴァレンティン・ティボン・デ・リビアンと、画家それぞれの動機を想像すると、一見似たものとして取り上げた作品それぞれの違いも見えて面白いですね。

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